証拠金を会社の財産と分ける義務
区分管理とは、FX会社が顧客から預かった証拠金を、自社の財産とは分けて管理する法律上の義務です。根拠は金融商品取引法第43条の3第1項にあります。
条文が求めているのは「自己の固有財産と区分して管理しなければならない」ところまでで、信託という方法までは書かれていません。方法を決めているのは内閣府令のほうです。株式など有価証券関連の分別管理を定めた第43条の2とは、別の条文になります。
経緯は金融先物取引業協会が説明しています。2007年夏以降にFX業者の破綻が複数あり、資金の流用やカバー取引の損失で証拠金が消失するなど、区分管理が適切でなかったために顧客へ返還できない事例がみられました。2008年夏から秋の金融危機では、カバー取引先の破綻リスクも表面化します。
これを踏まえて金融商品取引業等に関する内閣府令が改正され、区分管理の方法が金銭信託へ一本化されました。施行は2009年8月1日。既存業者には2010年1月31日を期限とする6ヵ月の経過措置が置かれ、適用開始は2010年2月1日でした。
信託保全のしくみと受益者代理人
信託保全とは、FX会社が証拠金に相当する金銭を信託銀行等に信託し、顧客を元本の受益者として分別する仕組みです。金商業等府令第143条第1項第1号は、通貨関連デリバティブ取引等と暗号資産等関連デリバティブ取引等について、方法を「信託会社又は信託業務を営む金融機関への金銭信託」に限定しています。同項第2号が挙げる銀行預金などは、これら以外のデリバティブ取引等にしか使えません。
契約には受益者代理人を置く要件も付きます。第143条の2第1項第2号は、受益者代理人の「少なくとも一の者」を弁護士、公認会計士、税理士、それぞれの法人または金融庁長官の指定する者から選ぶよう求めており、全員が弁護士である必要はありません。平常時は「業者等の役職員である内部管理責任者等が就くケースが一般的です」と協会は解説しています。
金額の算定は日次です。第143条の3は「個別顧客区分管理金額及び顧客区分管理必要額を毎日算定しなければならない」と定めました。何をどう反映するかは、下の表のとおりです。
| 要素 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 実現損益 | 加減算する | 金融先物取引業協会 |
| 評価損益 | 加減算する | 金融先物取引業協会 |
| スワップ損益 | 加減算する | 金融先物取引業協会 |
| 未払い手数料(未約定取引にかかるものは除く。) | ある場合はその額を減算する | 金融先物取引業協会 |
| 決済した場合に顧客に生ずることとなる利益の額 | 「含むものとし」=算入する | 金商業等府令 第143条の2第2項 |
| 決済した場合に顧客に生ずることとなる損失の額 | 「控除することができる」=任意 | 金商業等府令 第143条の2第2項 |
利益は含めることが義務、損失の控除は任意という書き分けです。
信託財産が必要額に足りなくなったときの期限は「満たないこととなった日の翌日から起算して二営業日以内」(第143条の2第1項第6号)。協会の例では、月曜日から火曜日午前7時までの取引を火曜日に計算した場合、追加は木曜日までとなります。ここでいう営業日は銀行営業日です。
守られるもの、守られないもの
信託保全が担保しているのは、算定された顧客区分管理必要額に見合う金銭までです。預けた額が必ず全額戻ることまでは担保していません。制度を解説する自主規制団体自身が、そう書いています。
「本ページで説明しておりますFX取引に係る証拠金の区分管理方法の信託一本化は、区分管理必要額計算時と追加信託期限に時間差があること等から、いかなる状況でも必ず顧客から預かった証拠金が全額返還されることを保証する制度ではありません。」(金融先物取引業協会)
理由は制度の設計にあります。必要額の計算時点と追加信託の期限には2営業日の時間差があり、その間に残高が動けば信託財産は不足します。毎日算定していても、毎日その日のうちに不足分が入るわけではありません。
返還の場面にも上限が置かれました。第143条の2第1項第14号は、受益権を行使した顧客への支払額を、行使日の元本換価額に、顧客区分管理必要額に対するその顧客の個別顧客区分管理金額の割合を乗じた額と定めました。それが個別顧客区分管理金額を超えるときは、個別顧客区分管理金額が上限です。足りなければ按分になり、上振れはしません。逆に元本換価額が必要額を超えた分は、委託者であるFX会社に帰属します(第15号)。
投資者保護基金の補償対象と店頭FX
日本投資者保護基金の補償は有価証券関連業務などに関わる資産が対象で、FX取引の証拠金は含まれません。基金のQ&Aは「信託受益権、組合契約などの第二種金融商品取引業に係る取引やFX取引については、日本投資者保護基金の補償対象ではありません。」と明記しています。同じ証券会社の口座でも、有価証券関連業務または商品市場デリバティブ取引関連業務に含まれない取引の資産は対象から外れます。
よく引かれる1,000万円は、補償対象だった場合の上限です。基金は、破綻した証券会社が分別管理の義務に違反したことによって顧客が返還を受けられなかった金銭・有価証券について、お一人あたり合計1,000万円までを上限に補償すると説明しています。上限は破綻した証券会社ごとに数えます。破綻しさえすれば自動的に支払われる制度ではありません。
取引所を通しても、通貨なら結論は同じです。しかも名前のよく似た2つで扱いが逆になります。基金が補償を受けられない取引に挙げるのは東京金融取引所の「くりっく365取引」など取引所の通貨関連取引、補償対象に挙げるのは「くりっく株365取引」に係る証拠金または証拠金代用有価証券のほうでした。
| 取引 | 証拠金を保全する主体 | 投資者保護基金の補償 |
|---|---|---|
| 店頭FX | 信託会社又は信託業務を営む金融機関(金銭信託/金商業等府令 第143条第1項第1号) | 対象ではないと明記 |
| くりっく365(通貨) | 東京金融取引所(取引参加者が証拠金の全額を預託) | 補償を受けられない取引として例示 |
| くりっく株365(株価指数) | この記事の対象外 | 証拠金・証拠金代用有価証券が補償対象として例示 |
くりっく365では、取引参加者が投資家から預かった証拠金の全額を東京金融取引所へ預託する義務を負い、同取引所が保管します。ただし公式ページも、取引参加者が破綻した場合に証拠金は「原則として」保全される仕組みだと限定して書いています。
預ける前に確認したい3つのステップ
制度の射程が見えると、口座を開く前に確かめる点は3つです。
ステップ1:信託先と契約の枠組みを公式資料で読む
区分管理の方法は、公式サイトか契約締結前交付書面に書かれています。信託先の信託銀行等の名称と、受益者代理人に弁護士等がいる旨の記載を探します。
ステップ2:算定と追加信託のあいだの時間差を前提に置く
算定は毎日、不足分の追加は2営業日以内。相場が大きく動いた直後には、必要額と信託残高がずれている時間帯があります。
ステップ3:資金を1社に集中させない
按分の可能性が制度に組み込まれている以上、口座を分けることは保全とは別ルートの防御です。分散と資金管理はリスク管理の5つの鉄則、コスト面の観点はスプレッドと取引コストの正しい考え方にまとめました。
手元の口座の区分管理方法を1社ぶん読んでみる
信託先と受益者代理人の記載は、公式サイトの「区分管理」の項にあります。
リスク管理の記事を読む 条文・制度は改正されます。判断の根拠にする数値は各機関の最新の公表資料でご確認ください。信託保全と区分管理のよくある質問
信託保全があれば、FX会社が破綻しても証拠金は全額戻りますか?
FXの証拠金も投資者保護基金の1,000万円まで補償されますか?
くりっく365なら投資者保護基金の補償対象になりますか?
信託は毎日行われているのですか?
区分管理と信託保全の要点
店頭FXの証拠金は、金商業等府令第143条第1項第1号により信託銀行等への金銭信託で区分管理されています。ただし算定と追加信託の時間差と按分の規定があるため、金融先物取引業協会は全額返還を保証する制度ではないと明記しました。日本投資者保護基金の補償対象にFX取引は含まれず、くりっく365も対象外。補償対象は名前の似たくりっく株365のほうです。
条文番号も数値も改正されます。金融庁や各機関の最新の公表資料で確認してください。取引そのもののしくみはFXとは?初心者が知っておくべき外国為替取引の基本と始め方で整理しています。
